【外山剣太郎・理沙子さん】わんちゃんの「もうひとつのわが家」をつくる
神戸のまちの北側に位置する兵庫県三田市に、一般的なペットホテルとは少し違う、わんちゃんたちが心落ち着いて過ごせるペットホテルがあります。第6回は、ペットホテル「funny pee(ファニーピー)」を運営されている外山剣太郎さん、理沙子さんにお話を伺いました。わんちゃんにとっても、飼い主にとっても、一緒に心安らかに暮らしていくための、たくさんのヒントをいただきました。
剣太郎さん:元々、私は動物園や水族館で働くことを目指して専門学校に進学しました。そこで、訓練士を目指していた、妻と出会いました。今はその学校はありませんが、白浜アドベンチャーワールドでアシカの世話をしたり、蒜山の牧場に牛のお世話をしにいったり、たくさんの実習を体験できる夢のある学校でした。卒業後、水族館への就職は叶わず、私はドッグフードのメーカーに就職し、彼女は訓練所で働くことになりました。結婚を機に、彼女は9年の訓練所のキャリアのもと、訓練士として独立しました。僕は会社で働きつづけていましたが、父の病気をきっかけに家業を手伝ううちに、彼女と一緒に働くことにしました。
funny peeをはじめたきっかけを教えてください
剣太郎さん:最初、妻がラブラドールとチワワを2匹ずつ飼っていたんです(ラブラドール:アレック、マヤ チワワ:アポロ、チロル)。
理沙子さん:訓練所にいたときの子たちをそのまま連れて帰ってきました。
剣太郎さん:その子たちが気軽に住める家を探して、この家を見つけました。きれいな家だと汚されたら困ると思うのも嫌だったので、新築は選びませんでした。それと、散歩するのにきれいな空気であることも条件でした。最初は、妻がひとりで訓練とペットホテルを始めました。わんちゃんをお預かりして、収穫された野菜をいただくこともありました。少しずつお預かりする機会が増えてきたので会社にしました。
コンセプトである「もうひとつのわが家」は奥様が考えられたのですか?
理沙子さん:いえ、夫です(笑)。
剣太郎さん:妻がやっていることを客観的に観察していて、彼女が追求しているものは、「もうひとつのわが家」かなと思ったんです。僕たちは、わんちゃんのお世話はもちろんですが、飼い主さんの力になれたらという気持ちが強くあります。飼い主さんはずっと愛犬のことを大切に考えていると思いますが、仕事でのストレスがあったり、病気をしたり、人生にはいろいろなことがありますよね。そういったしんどいときに、気軽に預けられる場所。彼女はそういう場所をつくっているのだなと感じました。「ちょっとリフレッシュしたいから旅行に行きたいねん」って気軽に声をかけてほしいです。
理沙子さん:実際、めちゃくちゃ気軽なんです(笑)。「明日行ってもいい?」とか、「今日遅くなるから、明日迎えに行ってもいい?」とか。
剣太郎さん:うちでは、クレートのなかで過ごさせるとかではないんです。もちろん夜寝るときは、クレートやゲージに入ってもらうこともありますが、昼間は自由にしてもらっています。僕らがずっと相手しているわけでもありません。生活のなかにいる感じですね。それが自然なかたちかなと考えています。
三田市という場所を選ばれた理由を教えてください
剣太郎さん:まず、空気が良いんです。彼女が訓練所で働いていたときの先生から、わんちゃんの出産を手伝う仕事をいただくことがあります。妊娠している子を預かって、出産後にお返しするお仕事ですね。空気がきれいなところで産んでほしいと思っていただけているようです。それに、近隣のひとたちにも良くしてもらっています。住宅街のなかで犬が吠えていたら普通は苦情が来ると思うんですが、逆に励まされたり、もっと看板出して大きくしたらなんて言っていただいたり、とても助けられています。
funny peeさんの一日の流れってありますか?
理沙子さん:特に決まった流れはありませんね。わんちゃんを預かっているときは、朝に散歩、昼は外で遊びます。日中、私はしつけや訓練の仕事に出かけることもあります。お預かりしているときは、もちろんお腹は空いていないかなとか、お水は足りているかなとか、確認していますが、自分たちの家族の流れに沿いながら、預かっている子たちのことと家族のことを同時にしている感じですね。
あらかじめ決められたカリキュラムに沿って預かる幼稚園もありますよね
理沙子さん:もちろん、それを求められることがあれば、訓練する時間をもうけることもあります。普通にお預かりするときは、朝晩に散歩、合間あいまでおやつをあげたり遊んだり、夜はおしっこに行ったり……、特別なことはしていませんよ。
funny peeという名前、おもしろいですね。由来を教えてください
剣太郎さん:彼女が最初に飼ったわんちゃんが、逆立ちをしておしっこをする子だったんです。それが原点だねということで、名前にしました。できるだけ上のほうにおしっこしようとする子で(笑)。
おふたりの役割分担はあるんですか?
剣太郎さん:彼女は訓練とお世話ですね。僕はお悩みの相談に対して解決のお手伝いをしたり、健康相談を引き受けたりしています。こういうドッグフードが合うんじゃないかなとか、こんなトッピングをしてあげるとよいのでは、とか。
ドッグフードメーカーにお勤めだったご経験が活きているんですね
剣太郎さん:そうですね。2023年からはfunny peeとしてセミナーをさせていただく機会もあります。
セミナーではどんなお話をされるのか、少し教えてください
剣太郎さん:栄養学については、たくさんの人がすでに話しています。でも、栄養学ってわんちゃんの健康を考えるうえでは、ごく一部の側面なんです。それ以上に、飼い主さんとの関わりが重要だと考えています。また、栄養学って複雑で難しいので、お伝えしたとしても忘れてしまうことがあります。栄養学よりシンプルなのが漢方なんですね。私たちがいつもわんちゃんをお世話できるわけではないので、飼い主さん自身がその子の様子を見ながら、対応を取捨選択していけるようになるといいなと。そういうセミナーを考えています。
栄養学、漢方……。奥が深そうです。もっと教えてください!
剣太郎さん:私は気学と漢方と栄養学を勉強してきていて、それらを組み合わせています。漢方では、犬のエネルギー(気)を高めるためには、地の気、天の気が関係していると考えます。地の気は栄養学なんです。犬の天の気は、空気や環境ですね。もう一つは、先天の気です。この犬が生まれ持った遺伝や体質です、これが漢方です。それぞれを考えてあげないといけません。さらに、人の気というのがあります。飼い主さんが一番影響を与えているんです。そして、飼い主さんにも地の気と天の気があります。わんちゃんを元気にしようと思ったら、まずは飼い主さんが元気にならないといけないんです。
例えば、わんちゃんにとっては、飼い主がずっと変わらないという落ち着き、安心が大切なんです。例えば、funny peeでは、お預かりしたわんちゃんから見たときに、妻がいつ会っても変わらないことが大切だと思っています。飼い主さんは仕事のストレスがあったり、さまざまな影響でずっと安定していられるわけではありませんから。
気学では自分らしさを考え、自分らしさが分かってくるんですね。自分らしくあることが幸せなことなんです。それは犬も同じです。このわんちゃんには、こういう言葉遣いでほめてあげたほうがよいですよ、とか。そういうことも気学で分かります。気学で自分らしさを見つけて、自身の安定感を得て、そのうえで栄養学を学び、漢方でわんちゃんの体質を知って……。「わたしのわんこは、わたしが守る」というテーマでセミナーをしていきたいと考えています。この考えのベースになっているのが、妻がやっているペットホテルやトレーニングなんです。
ここが大変、こういうところに気をつけているという点はありますか?
理沙子さん:落ち着かない子は少し大変ですね。まだ私が触れる子は大丈夫ですが。触れない子もなかにはいるので、そういった子が元気に健康に帰られるかどうかは気になりますね。ご飯食べない、水しか飲まないという子もいます。帰りたくて逃げ出そうとする子もいますし、散歩に行きたすぎる子もいます。複数の子をお預かりするときは、はじめましての子同士の場合も多いので、相性を見ながらですね。
funny peeを始められてから、印象的だったわんちゃんはいますか?
理沙子さん:チャッピーちゃんという、他人や子どもが嫌いということでお預かりした子がいました。最初に来たときは、ゲージから出なくて大変でした。散歩に行かないとおしっこもできない子だったのですが。年に1〜2回お預かりするなかで、接しすぎず放置しすぎずという距離感でいるうちに、何年かすると、私や長女が触れるようになってきたんですね。最終的には部屋のまんなかでお腹を出してごろんと寝てくれるようになりました。みんな、そうなってくれるといいなあと思います。慣れてくれるとうれしいものです。不思議なことに、子どもたちにしかなつかない子もいます。
今後してみたいことはありますか?
剣太郎さん:彼女は今のままでやりつづけていくと思うんです。僕がどのように彼女の活動に関係していけるかですね。わんちゃんの健康をフォローしてけるように、例えば、相談に乗ってあげたりとかセミナーをしたりだとか、情報を発信していきたいと考えています。
今後、ねこちゃんを預かったりすることはありますか?
剣太郎さん:ねこちゃんはまた違うんです。なぜかというと、犬は、従来、群れのなかで上下関係があってと言われてきましたが、昨今の研究で否定されはじめています。力の強い弱いはありながらも、揉めごとがないように調整しながら、共同関係で群れを維持しようとしていると分かってきました。昔は人間が犬に対してボスでなければならないという主従関係を強調した関係が大切と言われてきましたが、より安心できる関係や感情を分かちあえる関係が大切で、そのほうが犬もより飼い主を信頼するし、お互いに安定した関係を築けるようです。一方、猫は犬のように飼い主に関わらないんです。会話の種類がもう違うんです。犬はエネルギーで会話するんです。飼い主さんの仕草や表情などをすべて把握して考えると言われていますが、猫はそうではないようです。飼い主さんと犬が似たり、同じ病気になったりすることも必然というわけです。これも実証されています。もちろん、自分に似たわんちゃんを迎える傾向はあるんですが、例えば、高齢者のかたが飼っているわんちゃんは、落ち着いていることが多いんです。若い人が飼い主だと、どうしても活発な生活をしているから、アクティブなわんちゃんが多いんですよね。
一日のお気に入りの時間を教えてください
剣太郎さん:彼女が一番幸せそうな顔をするときは、全員のわんこを送り届けて、家に戻ってきてビールを飲むときですね(笑)。僕のお気に入りの時間は、それを見ているときです。
今日はお話、ありがとうございました!
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PROFILE
外山剣太郎さん、理沙子さん
20年以上訓練教士として活躍されている理沙子さんと、ドッグフードメーカー勤務を経て漢方スタイリストとしてトータルサポートする剣太郎さん。funny peeは通常のペットホテルではなく、外山家と空間をシェアする愛犬の「もうひとつの我が家」です。
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