nanowell Journal

まなべる ナノウエル

2023.06.22 まなべる ナノウエル #10

【秋元良平さん】写真とともに、愛犬との思い出を残すカメラマン

これまでに1000匹以上のわんちゃんを写真におさめている秋元良平さんは、ベストセラーとなった書籍『盲導犬クイールの一生』の著者であり、クイールの一生を撮影したカメラマンとしても有名です。たくさんのわんちゃんを撮影することになったきっかけや、キャンバスフォトへの思い、パートナーのかわいい表情を撮るコツについて、うかがいました。

カメラマンになったきっかけを教えてください

学生時代は、写真の勉強はしておらず、東京農業大学で受精卵移植の研究をしていました。卒業後は、職人的な仕事につきたいと考えていて、写真を学ぶことにしました。現像技術をはじめ、当時の写真は今よりも職人的だったんです。そうして、写真の専門学校の夜学に入学しました。

昼に働くために、編集職を求めて新聞社の面接を受けたところ、写真部での採用が決まりました。新聞の通信販売のコーナーに載せる写真をモノクロのフイルムで撮るという仕事でした。まだカメラマンとしての経験はないのに、いきなりの撮影です。前任者からの引継ぎ期間は1週間だけでした。手探りのなか、さまざまな工夫をしながら、撮影技術を身につけました。2年ほどお世話になり退職したあとは、自然の写真が撮りたかったので、長野県にあるコテージでお手伝いをしながら、撮影を続けることにしました。

しかし、自然の撮影をしていても食べてはいけないので、東京に戻ったところ、縁があって前職の会社のフリーペーパーの仕事をもらえるようになりました。その仕事のかたわら、ライフワークとして、長野県に通い、マリーさんというカナダのケベック州出身の方が作る料理を撮っていました。ストロボで撮影をすると、どの写真も同じようになってしまいますから、それではつまらないと思い、その季節の素材で作った料理を、そのときの太陽の光で撮るようにしていました。父には「人と同じことをやるな」とよく言われていましたので、常に新しいことに取り組みたいと思っています。マリーさんの料理写真をまとめて、ある大手出版社に持ち込んだところ、婦人向け月刊誌に連載をしてもらえることになりました。そこから写真の依頼がくるようになり、フリーのカメラマンとして世界中のレストランに撮影に行くようになりました。

クイールとの出会いについて教えてください

私が繁殖学を勉強していたこともあり、近所のご家庭から、ラブラドール・レトリバーの出産を手伝ってほしいとお願いされたんです。カメラを持参して、出産を手伝いながら、誕生の様子を撮影しました。5匹の父親は、関西盲導犬協会の繁殖犬だったため、産まれたうちの1匹は関西盲導犬協会に贈られるということでした。「このままこの子のことを追いかけて撮ってみてはどうか」と提案された、その1匹がクイールでした。あとから聞いた話ですが、性格などの適性があるため、盲導犬になれる犬は3割ほどだそうで、クイールが盲導犬になってくれたことに感謝しています。

最初は盲導犬になるまでの3年間を撮る予定でした。クイールが盲導犬になり、『盲導犬になったクイール』を出版しましたが、クイールが引退してからも一生を追いかけることになり、『盲導犬クイールの一生』ができました。

クイールを撮影するうえで、大変だったことはありますか?

マリーさんの写真と同じく、クイールを撮影するのはライフワークであって、仕事ではありませんでした。そのため、東京からクイールのいる関西までの交通費を全額負担するのが大変で、生活は厳しかったです。当時、カラーフィルムの現像はかなり高額だったため、自分で現像とプリントができるモノクロのネガフィルムで撮影をしていました。100フィートの長巻きフィルムから36枚撮りを切り出して使っていましたね。

クイールの一生を撮りおわり、共著者の石黒謙吾さんと一緒に、「本にしよう」と話をしてから、実現するまでに4年がかかったのも大変でした。たくさんの出版社に持ちこみましたが相手にされず、結果的に文藝春秋から少なめの発行部数で出版することになりました。その甲斐あって、驚くほどの反響をいただき、ベストセラーになりました。この世界は、何事もやってみないと分からないですね。

キャンバスフォトをはじめたきっかけと、魅力を教えてください

いろいろな自然の写真を撮ってきましたが、なにか物足りなさを感じていた時期がありました。そんなとき、クイールの写真展に来ていた1人の女性が、写真の前で立ち止まっていたんです。気になって、しばらくしてから声をかけてみました。彼女は、亡くなったばかりのパートナーのラブラドールのことを思い出していたそうです。その話を聞いて、わんちゃんとの幸せな思い出が頭に駆けめぐるような写真を残したいと思うようになりました。わんちゃんとともに、家族や、子どもたちが成長していく様子も撮ることができたら素敵だなと。

そのためには、インクジェットプリントでは納得ができず、プリントする素材を探しはじめました。そこで、キャンバスにプリントができることを知ったんです。もともと絵が好きだったため、やってみたくなりました。撮ったデータのままではなく、絵画調に写真を細かく調整してから、キャンバスにプリントをしました。そうすると、飼い主さんが写真を部屋に飾ってくれるようになったんです。これはまさしく、私が求めていた写真のかたちだと感じました。

わんちゃんの写真を撮るときに、気をつけていることはありますか?

初対面では、あまりわんちゃんを見ないようにしています。わんちゃんの性格にもよりますが、私のところまで来なければ、いきなり「いい子いい子」と撫でにいくことはしません。飼い主さんと会話をします。わんちゃんの警戒心は、飼い主さんと私がコミュニケーションをとっている様子を見て和らいでいきます。

あとは、飼い主さんにも撮影に参加をしてもらっています。横で座って見守るのではなく、わんちゃんにおやつで合図をだしたり、一緒に椅子に乗ったり飛び降りたりして、汗をかいて楽しんでもらいたくて。私は、思い出photo撮影会と呼んでいるのですが、かわいいわんちゃんの写真だけではなく、「あの撮影会のとき楽しかったね」という思い出ごと、心に残ってほしいなと思っています。

わんちゃんのいい表情を撮るコツはありますか?

一番は飼い主さんが楽しんでくれることです。飼い主さんが不安になれば、わんちゃんも不安になるし、飼い主さんが楽しそうにしていたら、わんちゃんも楽しい気持ちになります。だから、撮影のときには、「ちょっとそのあたりを走り回ってください」とお願いをしています。飼い主さんがはしゃいで笑うと、わんちゃんも盛り上がってきます。それで、良い写真が撮れちゃうんです。

秋元さんにとって、写真とはどういったものですか?

自分にとって写真とはなんだろうと、ずっと悩んでいました。撮るだけではなく、撮った写真をどう活かすのか、どう作りあげるのかを考えてきました。キャンバスフォトにたどり着いて、やっと写真の意味が見つかりました。独りよがりの写真展ではなく、私が撮った写真が家に飾られるという、飼い主さんと共同の写真展になったからです。私にとって、これほど幸せなことはありません。仕事以上のものです。だから、仕事だと思わなくなりました。いつか、「秋元さん亡くなっちゃったけど、うちに飾っているこの写真は秋元さんが撮ったのよ」と言ってもらえるのもいいなと思っています。あと10年はがんばりますけどね(笑)。

今までで一番印象に残っている撮影はなんですか?

やはりクイールですね。生きものの写真を撮りはじめたきっかけでもあります。クイールの一生を撮ることは、クイール自身を通しての学びはもちろんですが、フリーのカメラマンとしての学びがたくさんありました。フイルムの現像の方法、印画紙のプリントの方法、写真展示の見せ方といった基礎的な技術、スポンサーがないなかでの、取材の技術、宿泊先の用意など、多くを教わりました。

長くカメラマンをしていて、よかったと思うことはありますか?

フイルムの時代もデジタルの時代も経験してきたので、両方の良さを知っていることです。例えば、モノクロ印画紙で現像をするとき、たまに白でも黒でもない色が出ることがあります。とても深くて不思議な色合いが出るんです。黒といっても、さまざまな黒があります。インクジェットの時代になっても、たくさんの色合いを知っていることは大切です。デジタルがどれだけ便利であっても、最終的な良し悪しの判断は、人間が行わなければなりません。その判断基準が、私のなかでは印画紙なんです。フイルム撮影とデジタル撮影の移行期を経験して良かったことですね。

最後に、一日のお気に入りの時間を教えてください

私は寝るのが早いので、朝は4〜5時に目が覚めます。今の季節は4時半ごろから空が明るくなりはじめますよね。冬だと、6時ごろから明るくなってきます。そのときの空気感が好きです。窓が明るくなってくるとき、今日も生きていると感じられるんです。その瞬間が好きです。

 

今日はお話、ありがとうございました!

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PROFILE

秋元良平さん

1955年生まれ。東京農業大学畜産学科卒業。新聞社写真部の契約カメラマンを経て、フリーランスフォトグラファーになる。2002年に秋元良平写真事務所を設立。カメラマン歴は43年。2001年に出版した『盲導犬クイールの一生』はベストセラーとなり、ドラマ化と映画化を果たす。現在は、「思い出photo撮影会」を全国で開催し、撮影した写真をキャンバス生地にプリントする、キャンバスフォトを手がけている。

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